小説書きさんに100のお題 其の四
2004年2月22日 不定期連載 小説書きさんに100のお題小説書きさんに100のお題を元に小説のワンシーンを書く企画です。
お題はこちら
http://page.freett.com/yanagii/100/
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目の辺りに火花が散った。
即座に反転。考える間もなく、天地がひっくり返る。
視界に何も見えなくなってからしばらくの間は、不思議と痛みを感じない。痛感が鈍ったのかと思うくらいだ。砂だらけの地面に突っ伏しているんだ、そう気付いた途端、急激に熱さが全身に回る。
吹っ飛ぶ瞬間、僅かだけ見えた爪先に、まったく反応ができなかった。いつもそうだ。応戦しようと構えた時には既に拳が体にめり込んでいる。蹴り付けた相手が既に逆さまに見えていたり、瞬きした次の一息で地面に激突していたり。……どちらにしても、相手が動いた時点で既に決着がついている。
油断したなぁ。
普段ならここで舌打ちをしているだろうが、今そんなことをすれば確実にまた一撃もらってしまう。
最初は自分の方が圧していた。動きを読み取り、攻撃を交わしている間に次の動きをまた読み、確実に間合いを詰めていた。
しかし、調子がいいのもそこまでで、春一番にも似た強い風が辺りに埃を舞い散らした時、片目を瞑った瞬時に勝負を引っ繰り返された。
一度リズムが乱れると、何気ない動作すら予想がつかなくなる。
「まだ降参には早すぎないか? 倫」
頭上で聞こえる容赦ない声。
ちったぁ手加減しろ、このクソ親父!
悪態をつこうにも、堰と胃液が出るばかりで、過ろうじて息をしている、そんな状態だだ。とても、勝負をしているようには思えない。
いや、これでも手加減されているのだ。真剣勝負で向かい合っていたなら、命のスペアがいくつあっても足りない。
何割かの力でしかないのに、このザマか。
「避けられなくても諦めるな。いいか、受け止めるんじゃない、流すんだ。自分で威力を殺すんだよ」
理屈ではわかっている。攻撃を受ける側と逆方向に自分から飛べばいい。
わかってはいる、だが。
体は起こせても、呼吸が元に戻らない。四肢も意識とは別の次元で脈打っている。ほんの十秒、いや、五秒でいい、体を休める時間が欲しい。自分の前に立っている人物に目で訴えつつ、深い呼吸を繰り返す。
吐き出す息の量が自分で調整できるくらいにまで落ち着いた頃、また蹴りが飛んできた。かろうじてよけたものの、立ち上がり切れず無様に尻もちをつく。更にくり出される拳に後ずさるようにしてどうにか交わしながら、勢いでどうにか地面から手を離す。何十回と吹っ飛ばされると、自然と反射がつくものだ。
完全にバランスを取り戻していないのでどれも数ミリ差の範囲。追いつかれるのも時間の問題だった。
埃が舞って目に飛び込んだ。たまらず片目を瞑る。
やばっ、これさっきと同じパターンかも。
そう脳が理解した瞬間、無駄のない動きで父が足を振り上げる。
「!」
擦りはしたが、もう先程のように視界の反転はしない。避けられるものは確実に避け、対応が間に合わないものも最善の手段を考える。そんな余裕が出てきた。このスピードに体が慣れてきたのかもしれない。
こいつはもう食らわない。そう思ったとき。
また、父の足を振り上げるリズムと早さが変わった。
こうしてまた、敗北感を味わうことになるのだ。
何度地面に倒れ込んだのか、途中からカウントを忘れてしまった。
「ここまでだ。もう飽きた」
暇つぶしのつもりで遊んでいた、そう思わせる台詞を吐くと、彼は大の字になって倒れている息子を横に踵を返した。
流す余裕も、避ける余裕もまったく与えてもらえなかった。
何度向かっていっても、何度動きを読もうと目を凝らしても、結局いつもと同じく地面に叩きつけられて、自分の力でどうこうできるものではないことに気付かされる。自信が削られていく。
『限界が来たと思ったら、そう言え。コツはいくらでも教えてやる。お前の身を守るためだけのな』
もう、何年前になるんだろう。武術を本格的に教わる前の日に、そう言われたのは。
どうやったって無理だ。今度ばかりは攻略できない。限界だ。叩きのめされて、まったく勝機が見えないときは本気でそう思う。幾度繰り返しても変化が見られない、そんな状況が弱音を作り出しているんだろう。
これ以上やっても、後はずっと今の状態から進歩がないのではないかと。
自分には、人を守る力がないのではないかと。
……今が、それを口にする時なのではないかと。
足音が、ゆっくりと遠離る。
今の俺は、多分あんたを越えられない。自分の面倒すら今は見ることができない。周りの人まで守ることなんて到底できない。
耳鳴りがしてきそうな頭の中で、次々とそんな言葉が浮かび上がる。
もう、これ以上無理。そう言えばきっと、今より楽になれる。
倫は何かを言いかけ、声に出そうとしてそのまま噤んだ。溜息とも笑いともつかない表情で肩を揺らし、まったく別の一言で済ませる。
「ちょっと待ったぁ」
口の中が切れてどうにも染みたが、それでも絞れる限りの声で叫んだ。なるべく軽めに聞こえるようにわざとトーンを上げてみる。起き上がる気力すらないと思われたくないが為の精一杯の虚勢だった。
静かに足音が止まる。立ち止まったのがわかり、倫は切れた唇から血を拭うように強く拳で擦ってみせた。
「まだまだ、いけるよ」
まだこの人は越えられない。ひょっとしたら、いつまで経っても越える事はないのかも知れない。
けれど、少しずつでも跳躍を伸ばせば、いつか天辺に手をかけることくらいはできるかもしれない。
脳裏に浮かんだ仲間たちの顔がはっきりしてくると、自然とそんな風に思いなおす事ができるのだ。
66.壁でした。
私がいつも思ってて、そんでもって好きな言葉は
「一度受けた矢は痛いけど、もう二度目は食らわない」
ってこと。どっかのアナウンサーさんが言ってたと思いましたが誰の言葉だったか忘れちった( ̄▽ ̄;
忍者の修行みたいに、3mの壁が越えられたら今度は5m、5mが跳べたら10m。越えても越えてもきっとまたもっとでっかい壁みたいなもんはあって、自分が跳べるギリギリの高さだったり、10mが限界なのに突然30mとか、そんなこともあったりするかと思います。
避けて通ったり、思いっ切りぶち壊して通ったり、下から穴掘ってくぐってみたりと、手段は色々ですが、やっぱ何かそれなりに自分も行動しないと先には進めないんだろうなーと。
当たり前のことだけど、自分なりに先を見ていきたいなーとふと思った今日この頃でした。( ̄▽ ̄;
本日モノ書き仲間の巧馬さんと呑んでて、それぞれの持ちキャラの父親像で盛り上がったんで、なんとなく自分とこの主人公とそのおやぢを書いたともいう(笑)
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目の辺りに火花が散った。
即座に反転。考える間もなく、天地がひっくり返る。
視界に何も見えなくなってからしばらくの間は、不思議と痛みを感じない。痛感が鈍ったのかと思うくらいだ。砂だらけの地面に突っ伏しているんだ、そう気付いた途端、急激に熱さが全身に回る。
吹っ飛ぶ瞬間、僅かだけ見えた爪先に、まったく反応ができなかった。いつもそうだ。応戦しようと構えた時には既に拳が体にめり込んでいる。蹴り付けた相手が既に逆さまに見えていたり、瞬きした次の一息で地面に激突していたり。……どちらにしても、相手が動いた時点で既に決着がついている。
油断したなぁ。
普段ならここで舌打ちをしているだろうが、今そんなことをすれば確実にまた一撃もらってしまう。
最初は自分の方が圧していた。動きを読み取り、攻撃を交わしている間に次の動きをまた読み、確実に間合いを詰めていた。
しかし、調子がいいのもそこまでで、春一番にも似た強い風が辺りに埃を舞い散らした時、片目を瞑った瞬時に勝負を引っ繰り返された。
一度リズムが乱れると、何気ない動作すら予想がつかなくなる。
「まだ降参には早すぎないか? 倫」
頭上で聞こえる容赦ない声。
ちったぁ手加減しろ、このクソ親父!
悪態をつこうにも、堰と胃液が出るばかりで、過ろうじて息をしている、そんな状態だだ。とても、勝負をしているようには思えない。
いや、これでも手加減されているのだ。真剣勝負で向かい合っていたなら、命のスペアがいくつあっても足りない。
何割かの力でしかないのに、このザマか。
「避けられなくても諦めるな。いいか、受け止めるんじゃない、流すんだ。自分で威力を殺すんだよ」
理屈ではわかっている。攻撃を受ける側と逆方向に自分から飛べばいい。
わかってはいる、だが。
体は起こせても、呼吸が元に戻らない。四肢も意識とは別の次元で脈打っている。ほんの十秒、いや、五秒でいい、体を休める時間が欲しい。自分の前に立っている人物に目で訴えつつ、深い呼吸を繰り返す。
吐き出す息の量が自分で調整できるくらいにまで落ち着いた頃、また蹴りが飛んできた。かろうじてよけたものの、立ち上がり切れず無様に尻もちをつく。更にくり出される拳に後ずさるようにしてどうにか交わしながら、勢いでどうにか地面から手を離す。何十回と吹っ飛ばされると、自然と反射がつくものだ。
完全にバランスを取り戻していないのでどれも数ミリ差の範囲。追いつかれるのも時間の問題だった。
埃が舞って目に飛び込んだ。たまらず片目を瞑る。
やばっ、これさっきと同じパターンかも。
そう脳が理解した瞬間、無駄のない動きで父が足を振り上げる。
「!」
擦りはしたが、もう先程のように視界の反転はしない。避けられるものは確実に避け、対応が間に合わないものも最善の手段を考える。そんな余裕が出てきた。このスピードに体が慣れてきたのかもしれない。
こいつはもう食らわない。そう思ったとき。
また、父の足を振り上げるリズムと早さが変わった。
こうしてまた、敗北感を味わうことになるのだ。
何度地面に倒れ込んだのか、途中からカウントを忘れてしまった。
「ここまでだ。もう飽きた」
暇つぶしのつもりで遊んでいた、そう思わせる台詞を吐くと、彼は大の字になって倒れている息子を横に踵を返した。
流す余裕も、避ける余裕もまったく与えてもらえなかった。
何度向かっていっても、何度動きを読もうと目を凝らしても、結局いつもと同じく地面に叩きつけられて、自分の力でどうこうできるものではないことに気付かされる。自信が削られていく。
『限界が来たと思ったら、そう言え。コツはいくらでも教えてやる。お前の身を守るためだけのな』
もう、何年前になるんだろう。武術を本格的に教わる前の日に、そう言われたのは。
どうやったって無理だ。今度ばかりは攻略できない。限界だ。叩きのめされて、まったく勝機が見えないときは本気でそう思う。幾度繰り返しても変化が見られない、そんな状況が弱音を作り出しているんだろう。
これ以上やっても、後はずっと今の状態から進歩がないのではないかと。
自分には、人を守る力がないのではないかと。
……今が、それを口にする時なのではないかと。
足音が、ゆっくりと遠離る。
今の俺は、多分あんたを越えられない。自分の面倒すら今は見ることができない。周りの人まで守ることなんて到底できない。
耳鳴りがしてきそうな頭の中で、次々とそんな言葉が浮かび上がる。
もう、これ以上無理。そう言えばきっと、今より楽になれる。
倫は何かを言いかけ、声に出そうとしてそのまま噤んだ。溜息とも笑いともつかない表情で肩を揺らし、まったく別の一言で済ませる。
「ちょっと待ったぁ」
口の中が切れてどうにも染みたが、それでも絞れる限りの声で叫んだ。なるべく軽めに聞こえるようにわざとトーンを上げてみる。起き上がる気力すらないと思われたくないが為の精一杯の虚勢だった。
静かに足音が止まる。立ち止まったのがわかり、倫は切れた唇から血を拭うように強く拳で擦ってみせた。
「まだまだ、いけるよ」
まだこの人は越えられない。ひょっとしたら、いつまで経っても越える事はないのかも知れない。
けれど、少しずつでも跳躍を伸ばせば、いつか天辺に手をかけることくらいはできるかもしれない。
脳裏に浮かんだ仲間たちの顔がはっきりしてくると、自然とそんな風に思いなおす事ができるのだ。
66.壁でした。
私がいつも思ってて、そんでもって好きな言葉は
「一度受けた矢は痛いけど、もう二度目は食らわない」
ってこと。どっかのアナウンサーさんが言ってたと思いましたが誰の言葉だったか忘れちった( ̄▽ ̄;
忍者の修行みたいに、3mの壁が越えられたら今度は5m、5mが跳べたら10m。越えても越えてもきっとまたもっとでっかい壁みたいなもんはあって、自分が跳べるギリギリの高さだったり、10mが限界なのに突然30mとか、そんなこともあったりするかと思います。
避けて通ったり、思いっ切りぶち壊して通ったり、下から穴掘ってくぐってみたりと、手段は色々ですが、やっぱ何かそれなりに自分も行動しないと先には進めないんだろうなーと。
当たり前のことだけど、自分なりに先を見ていきたいなーとふと思った今日この頃でした。( ̄▽ ̄;
本日モノ書き仲間の巧馬さんと呑んでて、それぞれの持ちキャラの父親像で盛り上がったんで、なんとなく自分とこの主人公とそのおやぢを書いたともいう(笑)
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