不定期連載 小説書きさんに100のお題 その六
2004年3月12日 不定期連載 小説書きさんに100のお題小説書きさんに100のお題を元に小説のワンシーンを書く企画です。
お題はこちら
http://page.freett.com/yanagii/100/
以前の消化お題はこちら
http://www.interq.or.jp/mars/kogu/novel/100daiNovel/100daiNovel.html
------------------------------------------------------------ 何とも音程の外れた鼻歌を歌いながら、男は自転車を走らせていた。
年齢は二十歳をやや越した頃といったところか。中肉中背、といえば本人は喜ぶかも知れない。どちらかというと浴衣姿が似合う体系というのが相応しいこの男、どこに向かうのか時折よそ見をしながら、のんびりとペダルを漕いでいる。
ネクタイ……は自転車を走らせていると邪魔になるのでシャツのポケットに突っ込んであるらしい。紺色のスラックスとビジネスシューズ。営業の外回りにしては客先に嫌われそうなな無精ひげ、背負った灰色のディパックからして学生に見えなくもないが、どちらにしても中途半端だ。
商店街の掲示板に貼ってあるアイドルのポスターに見惚れているらしい。危なかしげなバランスを保ったまま、ペダルを漕ぐ足に力を入れる。
「サラリーマンはー、気楽な稼業っときたもんだっと」
パチンコBEWと書かれた看板の前で一度自転車を停めかけ、何かを考え直したのかまたサドルを跨ぎ直した。
結局、彼がたどり着いたのは商店街の外れにある小さな喫茶店「木陰」。白い色を基調に、窓枠はレンガをあしらった中々洒落た店構えだ。
両肩で背負っていた灰色のディパックの右肩をわざと降ろし、片方だけで背負いなおすと、店の扉を開いた。カランと音がして客が来たことを知らせる鈴が小さく鳴った。
カウンターでコーヒーを淹れていた店主らしき男が、友達を見るような顔でにこりと笑った。
「俺グレフルね。それから、また例によって電源借りんよ」
「好きに使って」
「さんきゅ」
迷うことなく窓際の一番奥に席をとり、腰を降ろす。同時にディパックも隣に放り投げた。中からノートパソコンを取り出し、自分のうちのように電源コードを繋げる。
Dとカッティングシートが施されたマシンの蓋を開けると、起動音が鳴った。
「グレフルお待ち。なに、ヤマちゃん、今日もサボリ?」
「人聞き悪い事言わない。やる気が出るような環境を作るのも仕事のうちなんだよ」
運ばれたグレープフルーツジュースを一口飲み込み、一気にキーを打つ。
一方で、読み込まれるメールの一覧をチェックする。毎回かなりの量になる。どうでもいいものも多いのだが、たまに必要なものも紛れてくるからこのメールチェックというのもなかなか面倒臭い。
「作業報告」「親愛なる貴方へ」「Hi」……他59件
英語のメールはまずいらない。明かにスパムとわかるのも却下だ。そうすると、多くて四、五件。一件も残らないこともある。
とりあえず、日本語で書かれたメールだけ見ていくことにする。明かにアダルトサイトへのお誘いとわかるものはここで削除。微妙に自分好みの女の子の顔があっても涙を呑んで削除。
すると
「作業報告」
「お願いです」
「○日発生の不具合について」
今回は三件だ。
仕事関連だとわかる2つについては後で見るとして、気になるのは二件目のタイトル、「お願いです」。
差出人は「Bottle」となっている。
Bottle。確かどこかで覚えたアドレスのような……。
とりあえず例しに目を通してみる。数行読んで、胡散臭ければその場でごみ箱行きだ。
『ysぢlryr
ぎぃど、slrm ういhせs、いts
うえの なお』
「……なんじゃこりゃ?」
もう一度差出人を確認してみる。Bottle……ボトル??
「……あ」
思い出した。だいぶ前に登録していてすっかり忘れていたメーリングリストの一種だ。登録しておくと、書いた手紙をボトルに入れて流すのと同じ感覚で、登録したメンバーの誰かにメールが届くというものだった。
なんとなく面白そうだったので登録した。結局、自分からメールを流さないとほとんどメールが回ってこないので、時とともに登録したことすら忘れていた。
ネットの海に投げた手紙。それは、いつ、誰に届くかもわからない。そんな内容だった。 かろうじて文字として認識できるのは「ぎぃど・うえの・なお」暗号か何かだろうか。(ま、スパムでもないし。とりあえず、取っとくか)
とにかく、何かを伝えるためにネットの海を流れて、偶然ここにやって来たのは確かのようだ。
83.漂着でした。
文中で記述したボトルに手紙を入れて流すようにネットの海をどんぶらこっこすっこっこと不特定多数の人にメールを届けるツール。実際に存在します。
私が書いたのはお話の中のものなので、普段使ってるメールに届くという設定になってますが、ホンモノは、ボトルメール専用のツールを使ってメールのやりとりをします。
面白いですよ。メールの送信は、手紙をビンに入れて海に放るんです。
投げたビンは、同じくボトルメールがインストールされている誰かの所に流れていきます。
この間やったんですが1月頃に書かれた誰かのメールを拾いました(笑)
私のお題の中ではちょいと殺伐としたイメージがあるかもですが、ホンモノのボトルメールの方は、みなさんイラストや写真をふんだんに使ったメールを楽しくやり取りしていますよ^^
http://www.bottlemail.jp/
一週間は使用無料。 以降はシェアウェア
お題はこちら
http://page.freett.com/yanagii/100/
以前の消化お題はこちら
http://www.interq.or.jp/mars/kogu/novel/100daiNovel/100daiNovel.html
------------------------------------------------------------ 何とも音程の外れた鼻歌を歌いながら、男は自転車を走らせていた。
年齢は二十歳をやや越した頃といったところか。中肉中背、といえば本人は喜ぶかも知れない。どちらかというと浴衣姿が似合う体系というのが相応しいこの男、どこに向かうのか時折よそ見をしながら、のんびりとペダルを漕いでいる。
ネクタイ……は自転車を走らせていると邪魔になるのでシャツのポケットに突っ込んであるらしい。紺色のスラックスとビジネスシューズ。営業の外回りにしては客先に嫌われそうなな無精ひげ、背負った灰色のディパックからして学生に見えなくもないが、どちらにしても中途半端だ。
商店街の掲示板に貼ってあるアイドルのポスターに見惚れているらしい。危なかしげなバランスを保ったまま、ペダルを漕ぐ足に力を入れる。
「サラリーマンはー、気楽な稼業っときたもんだっと」
パチンコBEWと書かれた看板の前で一度自転車を停めかけ、何かを考え直したのかまたサドルを跨ぎ直した。
結局、彼がたどり着いたのは商店街の外れにある小さな喫茶店「木陰」。白い色を基調に、窓枠はレンガをあしらった中々洒落た店構えだ。
両肩で背負っていた灰色のディパックの右肩をわざと降ろし、片方だけで背負いなおすと、店の扉を開いた。カランと音がして客が来たことを知らせる鈴が小さく鳴った。
カウンターでコーヒーを淹れていた店主らしき男が、友達を見るような顔でにこりと笑った。
「俺グレフルね。それから、また例によって電源借りんよ」
「好きに使って」
「さんきゅ」
迷うことなく窓際の一番奥に席をとり、腰を降ろす。同時にディパックも隣に放り投げた。中からノートパソコンを取り出し、自分のうちのように電源コードを繋げる。
Dとカッティングシートが施されたマシンの蓋を開けると、起動音が鳴った。
「グレフルお待ち。なに、ヤマちゃん、今日もサボリ?」
「人聞き悪い事言わない。やる気が出るような環境を作るのも仕事のうちなんだよ」
運ばれたグレープフルーツジュースを一口飲み込み、一気にキーを打つ。
一方で、読み込まれるメールの一覧をチェックする。毎回かなりの量になる。どうでもいいものも多いのだが、たまに必要なものも紛れてくるからこのメールチェックというのもなかなか面倒臭い。
「作業報告」「親愛なる貴方へ」「Hi」……他59件
英語のメールはまずいらない。明かにスパムとわかるのも却下だ。そうすると、多くて四、五件。一件も残らないこともある。
とりあえず、日本語で書かれたメールだけ見ていくことにする。明かにアダルトサイトへのお誘いとわかるものはここで削除。微妙に自分好みの女の子の顔があっても涙を呑んで削除。
すると
「作業報告」
「お願いです」
「○日発生の不具合について」
今回は三件だ。
仕事関連だとわかる2つについては後で見るとして、気になるのは二件目のタイトル、「お願いです」。
差出人は「Bottle」となっている。
Bottle。確かどこかで覚えたアドレスのような……。
とりあえず例しに目を通してみる。数行読んで、胡散臭ければその場でごみ箱行きだ。
『ysぢlryr
ぎぃど、slrm ういhせs、いts
うえの なお』
「……なんじゃこりゃ?」
もう一度差出人を確認してみる。Bottle……ボトル??
「……あ」
思い出した。だいぶ前に登録していてすっかり忘れていたメーリングリストの一種だ。登録しておくと、書いた手紙をボトルに入れて流すのと同じ感覚で、登録したメンバーの誰かにメールが届くというものだった。
なんとなく面白そうだったので登録した。結局、自分からメールを流さないとほとんどメールが回ってこないので、時とともに登録したことすら忘れていた。
ネットの海に投げた手紙。それは、いつ、誰に届くかもわからない。そんな内容だった。 かろうじて文字として認識できるのは「ぎぃど・うえの・なお」暗号か何かだろうか。(ま、スパムでもないし。とりあえず、取っとくか)
とにかく、何かを伝えるためにネットの海を流れて、偶然ここにやって来たのは確かのようだ。
83.漂着でした。
文中で記述したボトルに手紙を入れて流すようにネットの海をどんぶらこっこすっこっこと不特定多数の人にメールを届けるツール。実際に存在します。
私が書いたのはお話の中のものなので、普段使ってるメールに届くという設定になってますが、ホンモノは、ボトルメール専用のツールを使ってメールのやりとりをします。
面白いですよ。メールの送信は、手紙をビンに入れて海に放るんです。
投げたビンは、同じくボトルメールがインストールされている誰かの所に流れていきます。
この間やったんですが1月頃に書かれた誰かのメールを拾いました(笑)
私のお題の中ではちょいと殺伐としたイメージがあるかもですが、ホンモノのボトルメールの方は、みなさんイラストや写真をふんだんに使ったメールを楽しくやり取りしていますよ^^
http://www.bottlemail.jp/
一週間は使用無料。 以降はシェアウェア
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